『ホームステイは戸惑うことがいっぱい』
海外でホームステイを体験すると、異文化に戸惑う子どもがたくさんいます。
私は以前、海外ホームステイのコーディネーターをしていたことがあります。9歳から14歳までの30人ほどの子どもを2、3人のコーディネーターと添乗し、2週間程度のホームステイを経験させるというものです。
内容はホストファミリー宅に滞在しながら、午前中はスタディーセンターと呼ばれる学校に通い、午後は街中に出てフィールドワークを行うプログラムです。
私はオーストラリアとカナダに添乗したことがあり、プログラムの間は私たちコーディネーターもホームステイをします。
私自身、10代の頃はこのような海外ホームステイのプログラムに参加したこともあり、ホームステイの経験は複数回あります。それでも毎回、今まで知らなかった文化に驚きます。
子供たちにとっては、ホームステイはワクワクするものでもあり、時にショックを受けるものでもあります。ここでは、そんな子どもたちの多くが直面するショッキングな異文化について紹介します。

『ホームステイで体験するショッキングな異文化(その1):お弁当が日本のお弁当とは違う』
日本で「お弁当」と言うと、お弁当箱に入った色とりどりなお弁当を想像する人が多いのではないでしょうか。
特に子どもが小さいと、お母さんたちは子どもの好きなおかずのハンバーグやフライドチキンを入れたり、トマトやブロッコリーなどの色とりどりの野菜を入れたり、キャラクター弁当を作ったりと、力を入れますよね。
また、一口大に切られた果物が入っていたり、かわいいナフキンやお箸が入っていたりして、遠足の時などはワクワクしたと言う経験を持つ人も多いと思います。
それに対し、海外のお弁当と言うものはサンドイッチが主流です。
また、日本でサンドイッチと言うとハムやレタス、卵やツナ、トマトなど様々な具材が考えられ、彩り豊かというイメージがある人も多いでしょう。
しかし、海外のサンドイッチはそうとは限りません。ピーナツバターを塗っただけのサンドイッチもあるし、レタスにチーズが入っただけの簡素なサンドイッチもあります。
日本で考えるサンドイッチに比べると圧倒的に具材は少ないし、決して健康的とは言えないことの方が多いです。
果物にしても、日本ならお母さんがりんごを小さく切ってくれるものです。一方の海外では、りんごを丸かじりするのが一般的なため、お弁当にりんごがまるまる1個付いてくることもあります。
さらに、日本のお母さんなら遠足でもない限り、スナック菓子をお弁当に入れる事はまずないでしょうが、海外はスナック菓子を子供に持たせるお母さんも少なくありません。
そのため、ホストファミリーにお弁当を作ってもらってスタディーセンターにやってくる子供の多くがまずお弁当にショックを受けます。
日本のお母さんが遠足の時に作ってくれるようなお弁当とは全く違うピーナッツバターのサンドイッチや、切られていない果物、たくさん入ったスナック菓子を見て、「自分は大切にされていない」「自分の栄養面なんてどうでもいいんだ」と戸惑い、泣き出してしまう子供も実は少なくありません。
特に日本ではお母さんたちが彩りや栄養面を考えてお弁当を作ってくれることが多いですが、海外に行き、ピーナツバターのサンドイッチにりんごが 1 個、スナック菓子が 3 袋、と言うお弁当を持たされて戸惑ってしまう子供がたくさんいるのです。
私自身お弁当でショックを受けた事はありませんが、高校生の時は噛むと砂糖の感触がする、ど甘いチョコレートケーキだけがお弁当箱に入っていました。
とても食べられたものではなく、友達からお弁当を分けてもらったことがあります。
コーディネーターとして添乗をしたときは、ホストマザーがわざわざお弁当を作ってくれたのですが、毎日具材が新鮮なレタスときゅうりとトマトという水分の多いサンドイッチでした。そのためにお昼頃にはパンが水分を吸ってしまい、サンドイッチが水浸しになっていたということもあります。
さすがにこの時は苦笑いでした。食べられる状態ではなかったため、近所のお店でお昼ご飯を購入しました。
しかしホストマザーは好意でお弁当を作ってくれていましたから何か言えるはずもなく、毎日ありがたくお弁当受け取り、申し訳なく思いながら捨てた覚えがあります。
この時は大人だったので苦笑いで済みましたが、子供だったらショックを受けただろうなぁと思います。もちろん子供がこのようなお弁当を持ってきたら、コーディネーターがホストファミリーと話をしますが…
しかし、これこそが異文化であり、海外ではこれが普通なのです。
ショックを受ける子供たちを見るたびに、これが異文化であると言うことを説明し、日本のお母さんに感謝をしようね、と話すようにしていました。
異文化を経験すると同時に日本のありがたみがわかると言う事は素晴らしい事だと思います。

『ホームステイで体験するショッキングな異文化(その2):洗濯は自分でする』
日本の洗濯は、家族でまとめてすると言うパターンが多いのではないでしょうか。
もちろん、思春期の娘が「私の洋服をお父さんの洋服と一緒に洗わないで!」と騒ぐ事はあるかもしれませんが、基本的に自分で洗濯をすると言う人は少ないと思います。
また、1日に1回、2日に1回は洗濯をするのではないでしょうか。
海外は、5日から1週間に1回、自分で洗濯をするということが一般的です。下着を含め洋服はプライベートなものですから、自分で洗濯をするのです。
そのため、ホームステイを経験する子供たちは1週間ぐらい経つと、着る服がない、洗濯をどうしよう、と悩むようになります。
ホストファミリーによっては、日本の事情を考慮して日本から来た子どもの洋服を一緒に洗濯してくれることもあります。
自分で洗濯するというルールを知っていないと、中には「自分のホストファミリーは、自分の分は洗濯してくれない」と悲しくなってしまう子供がいるのです。
子どもたちには、基本的には自分で洗濯をするようにと話し、「洗濯をしたい」「洗濯の仕方を教えて欲しい」と言う英語表現を教えるようにしていました。
しかし、ホームステイを経験する小中学生にとって「洗濯」と言う英単語は一般的ではありません。そのため、なかなか英語表現を覚えられずに苦労をする子どもも少なくありませんでした。
必要な場合は私たちコーディネーターがホストファミリーに、「子どもたちに洗濯の仕方を教えてあげて欲しい」と直接お願いすることもありました。
海外では1週間に1回、自分で洗濯をする、ということが理解できていれば何の問題ないです。ただ日本でお母さんが毎日洗濯をしてくれるという状況に慣れていると、洗濯はなかなか理解しがたい異文化ともいえます。2週間のホームステイを終える頃には、子どもたちは大体自分で洗濯ができるようになります。そして子どもたちと、「日本ではお母さんがやってくれるから感謝だね」と話していました。

『ホームステイで体験するショッキングな異文化(その3):料理の品数が少ない』
海外に行くと食べ物がとにかく違うため、大人であってもストレスが溜まると言うことがあります。子供にとってはそのストレスはさらに大きなものとなります。
海外は家庭によって、一品料理が主流です。
私自身、高校生でカナダにホームステイをした時、ホームステイの初日に「今日はあなたを歓迎して素敵にするからね!」と言われたのですが、夕食は本当にステーキとマッシュポテトだけで、「野菜も何もない!」と驚いた記憶があります。
もちろん、ステーキ自体が大きく、それだけでお腹いっぱいになるような量ではあるのですが、日本ならばステーキにもご飯や野菜がついてきますから、その違いに驚きました。
日本なら何か嫌いなものがあったとしても、それ以外に食べるものがあります。
しかし、一品料理が主流の場合、その一品料理が嫌いなものであった場合、食べるものがないと言うことになってしまうのです。そのため、食生活に苦労をする子どもが少なくありません。
また、ホストファミリーに好きなものを聞かれて答えると、毎晩それが出てくると言う経験をする子どももいます。
本来はファミリーの好意であり、遠いアジアの国から来た子どもが食べ物で戸惑わないようにと好きなものばかりを提供してくれるのですが、毎晩同じメニューと言うのも辛いものがあります。
中には「トマトソースのスパゲティーが好き」と答えたら、毎晩トマトソースのスパゲティーが出てきたと言う子どももいました。
自分が好きだと答えてしまったが故に、他のものが食べたいと言えない状態に陥ってしまう子どももいたため、その場合はもちろん、私たちコーディネーターがホストファミリーと話をするようにしていました。
また、食事の回数が違うと言うこともありました。日本ならば、朝、昼、晩と3食が普通です。
しかし家庭によっては朝ご飯を食べないと言うこともあり、お腹がすいて仕方がないと言う子どももいました。
もちろん、原則的にはホストファミリーのルールに従いますが、食事の回数が少ないと言うのはなかなか慣れることができる文化ではありませんので、その場合もコーディネーターからホストファミリーに話をすることになります。
また、同時に日本のお母さんたちが作ってくれる食事がどれだけ有難いものなのか、気付くきっかけにもなります。
食欲と言うのは人間の本能ですので、食事に関してストレスが溜まると辛くなってしまいます。
もちろん、海外の食事の文化も慣れてしまえばかなりラクになります。それまでの期間は耐える必要がありますね。

1. お弁当は日本のお弁当とは異なる
2. 洗濯は1週間に1回、自分でする
3. 一品料理が多い
もちろん、これ以外にも数え切れないほどの異文化があり、子どもたちが戸惑うきっかけになる事はたくさんあります。
しかしどれだけ苦労しても、2週間経った頃にはどの子どもたちもすっかり海外の生活に慣れ、子供たちはホストファミリーとの別れを惜しみます。
最初の頃はショックを受けるばかりだった子供たちが、徐々に笑顔を見せるようになります。
「ホストファミリーに言えない!」「どうしよう」と悩んでいた子供たちが、「自分でなんとかする!」と解決策を覚えていくのです。
そんな姿を見ると、子供たちの成長の素晴らしさを実感し、親御さんが見たらどれだけ嬉しいだろうかと感じます。
異文化と言うのは、決して楽しいものばかりではありません。中には戸惑いながら覚えていくものもあり、ホームステイと言うのは異文化だらけ、つまり戸惑いだらけともいえます。
しかしその異文化を経験し、自分で解決する方法を身に付け、同時に日本の家族にも感謝できるようになるという点で、ホームステイは素晴らしい体験だと言えます。
私はもうコーディネーターの仕事はしていませんが、これからも多くの子どもたちに、ホームステイを経験してほしいと思っています。
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